olliとロトスコープについて

写真や動画を手書きアニメ風にするアプリ「Olli」が人気に 漫画家やイラストレーターも反応 - ねとらぼ

Olli流行ってるそうですね。

自分もやってみました。この記事には二百四十円の経費がかかっています。

タグをoilliと書き間違えています。恥ずかしいですね。それはさておき、このアプリの凄いところって静止画ではなくて動画にできる所だと思ってて、アプリを起動するとリアルタイムで目の前の光景を線画で起こして動画にしてしまう所がインパクトだと思います。

で、おっ、これはまさにロトスコープのアプリだな、と思ってツイッターで「olli ロトスコープ」で検索したら言及が12しかなく悲しい思いをしました。ですからこれからロトスコープの話をします。

 

artscape.jp

ロトスコープとは何ぞや。現代美術用語辞典2.0というのがあります。便利です。調べたら今日書こうと思ってたことがだいたい書いてありました。

それでは精読していきましょう。まずはここから。

ロトスコープは実写映像をベースにしてアニメーション映像を作り上げる技法である。

なんかこういうのTVアニメで見た事ありませんか。

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はい。あー、あの原作のキャラデザ無視して気持ち悪かったやつね、と思い出した方もいるでしょう。おっとアニメ版惡の華の悪口はそこまでだ。私を怒らせない方がいい(#^ω^)

まずは上記の記事は読みましょう。自分も思春期の青年が抱く外界への不安とその不安からくる神経質な肉体、気持悪い立ち振る舞い、自意識過剰さを表現するのにロトスコープという表現を使ったのは間違いなかったと思っています。だけど当時はあんまり受け入れられてなかったかな。

あと岩井俊二監督の花とアリス殺人事件もありましたね。

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なんか惡の華とか岩井俊二監督作品、とか日本のTVアニメだけ見てる人には異端な作品の技術のように思われてしまうのがあれなんですが、

発明したのはのちにフライシャー・スタジオを設立するフライシャー兄弟の兄マックスで、1917年に特許を取得している。10年代のアメリカはアニメーションの産業化の時期にあたる。分業による大量生産が志向されるなか、ロトスコープは未熟なアニメーターでもリアリティのある動画制作を可能にするものとして当初は考案された。

ちゃんとアニメーションの歴史の昔からある由緒正しい技術です。

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はい、ここら辺のことについて短く簡潔にわかりやすくまとめてくれている動画がありました。人類ってすばらしい。フィルムの上に映る人の動きをトレースして線画を起こして、動画にする。確かにモーションキャプチャーロトスコープの技術の延長線上にあると言えなくもない。それを言ったらVtuberだってある意味そうですよ。

あと、アニメーションを産業として制作していく上で技術的にも動画の量を作るのにも困難があって、それを解決するために発明された技法だったという事も重要。でも、それによって作られたアニメーションに宿ったのは動きのリアルさだけでなく、不気味の谷現象とも言える過剰さだった。

しかしフライシャーはむしろ、実写をなぞることでできあがる動きの奇妙さ(単純化を行なうアニメーションにそぐわないリアリティの創出)に注目し、その物珍しさを興行的な売りとすることとなった。一方、ディズニーは逐語的に映像をなぞるのではなく、トレース箇所を選択することにより、キャラクターの動きにリアリティを付与する方向を選んだ(『白雪姫』、1937)。

惡の華キモいっていうのはまさにこの動きの奇妙さの事だと思います。ディズニーは工夫してロトスコープする箇所を選んで取り入れたと。

そんなアニメの大量生産のために発明された技法が今やスマートフォンのアプリに。時代の進化って凄いなー、という前に、olli発表前にすでに動画から線画を起こしロトスコープにするためのソフトはありました。ロトショップというソフトです。

http://www.flatblackfilms.com/Flat_Black_Films/Home.html

 ロトスコープは歴史的に議論の的となっており、実写を用いるがゆえに純粋なる運動の創造ではないという批判をつねに浴びてきた(ラルフ・バクシの実践など)。デジタル技術の進展はロトスコープに新たな光を当て、ボブ・サビストンが開発したデジタル版ロトスコープ「ロトショップ」は、リチャード・リンクレイターのアニメーション作品『ウェイキング・ライフ』(2001)や『スキャナー・ダークリー』(2006)などに用いられることで脚光を浴びた。

 実写トレースなんて手抜き(今でも言われそう)な批判は昔からありましたが、ロトショップの登場によりソフトを使って簡単にできるなら手書きアニメと比べて手抜きじゃん、どこが芸術なの、と過去のロトスコープ批判の焼き直しが繰り返されたそうです。でも、むしろ手軽に製作できてインパクトのある映像作れるんだからいいじゃん!むしろ挑戦的な作品を作りたいDIY映像製作の味方だよ!として現代のロトスコープを見るべきだと言う話が(凄い意訳ですが)下記の本の掲載論文に書かれています。表象のこの巻が出た時ちょうど惡の華の放送時期で、なんでみんなこれ話題にしないの、と憤ってた記憶が。

表象07|表象文化論学会|月曜社

ロトショップの文脈――コンピュータによるロトスコーピングとアニメーション美学(ポール・ワード/土居伸彰=訳)

あと旧来のアニメーション作家の手書きへのこだわりと新世代のアニメーション作家のデジタルソフト使用の抵抗感のなさのギャップについてはやはり土居さんのこの本が詳しい。

21世紀のアニメーションがわかる本

以上の話をまとめると、そもそもロトスコープというのはアニメーション制作技術の民主化、低コスト化を目指して生まれた技法で、その割にインパクトのある映像が作れるという特徴があり、それがロトショップ、そして現在流行しているolliに受け継がれ、まさに誰しもがロトスコープできるようになり、そのインパクトゆえアプリが流行している。

なんか一本の歴史が繋がったように思えませんか。そういう流れを感じて欲しくてこの記事を書いてみました。ただふーんイラスト風動画作成アプリなんだなーと思うだけじゃなく、こういうアニメーション技法の歴史とも繋がっているんだなーと感じてもらえれば幸いです。