手書きと3DCGが混在するアニメの現状と「チカっとチカ千花っ♡」が与えた衝撃

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放送直後から話題になった、TVアニメ かぐや様は告らせたい 第3話ED「チカっとチカ千花っ♡」。その精巧なダンスの動きに、どのような手法で制作されたのかファンの間で話題になっていた。

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単に人が振り付け通りに踊っているところをモーションキャプチャーして、3DCGモデルに落とし込んだのであれば、ここまで視聴者の話題になる動画にならなかっただろう。そのような手法は既に見慣れた物になっている。だが、今回のこの動画は何かが違う。視聴者が微妙な違和感を感じたからこそ、これだけ話題になったのだと思う。

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自分もただの3DCGにしては手書きのニュアンスが感じられ、セルルックとも違う感覚に、この違和感は何だろうとずっと考えていた。モーションキャプチャー+セルルック3DCGに手書きを足した合わせ技ではないか、という推測をしていた。

原画担当者、中山直哉氏からの正式なアナウンスメントは以下の通りだ。

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つまりロトスコープ、実写から手書きでトレースして線画に落としこむ直球の手作業だった。実写から動きをトレースして取り込むという意味ではモーションキャプチャーと変わらないし、その先祖とも言える技術だろう。ただし動きをアニメーションに落とし込むのは全て人力だ。今は自動で線画に落とし込むソフトもあるが、今回はあくまで手書きで行われたようだ。

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↑以前ロトスコープについて書いた記事

 

自分が疑いもなくこの動画を3DCGベースだと思ってしまった事にまず驚いている。メイキングの線画の方を見るとまだ手書きのように見える。ただここからさらに中割の動画が入る(!?)事で、人が手書きとモーションキャプチャーを見分けられる閾値を超えたのだろうか。あと彩色、コンポジットの要素も絡んでいると思う。

モーションキャプチャーと3DCG技術によって、人の動きを単にトレースしてアニメーションにする事のハードルは相当に下がっている。今やVtuberだってこういった技術を活用し、個人レベルでも制作が可能だ。単に労力を思えばいちいち手書きでやる必要はない。

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 だが本件は、実写のトレースであっても、中山氏が言うようにそこに誇張と省略という「技術」があると今のモーションキャプチャーを見慣れた視聴者の眼にも、独特な視覚的快楽を伴ったアニメーションとして写る、という事を証明している。

今期放映されているアニメを見回すと3DCGによる作品本数が増えたなと感じる。手書きと3DCGの違いはあれども、どちらも(日本で放送されている)アニメという大枠の中に放り込まれて同じようなものとして視聴されている。3DCGの側がセルルック技術等で手書きアニメーションに歩み寄ろうとしている中で、手書きアニメが3DCGではないかと見間違えられてしまう今回の事態が、その状況を的確に表していると思う。

そうした状況の中で、その微妙な差異を目ざとくとらえて新しい動きだと感じる視聴者が数多く存在している。今回の動画とそれをめぐる視聴者の反応は、日本におけるアニメの作り手とその受け手のセンスが新しいフェーズに入ったと感じさせられる出来事だった。手書きと3DCGが混在する今のTVアニメの状況下で、動きの快楽のエッジがどこにあるのかを示す端的な出来事だったと思う。