2019/3/31 ONE Championship A NEW ERA

ONE Championshipを見に行ってきた。本当に神興行だった。

なぜ神興行だったか。
とにかく青木真也が勝ったからだ。

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PRIDE全盛期の青木真也を知っていて、そしてその後の日本格闘技界全体の惨状や、彼の苦闘を目の当たりにして、それでもこの日の両国国技館を訪れた人にはもう何も語る必要はないだろう。本当に青木真也が勝って良かった。

シンガポールで産まれた総合格闘技団体 ONE FCはアジア圏を中心に拡大し、ミャンマー、オーストラリア、フィリピン、中国等の国々からチャンピオンを生み、各国のファン層を拡大していった。そして今回の両国国技館大会で、かつての格闘技大国日本へと上陸を果たした。

ONE Championshipの日本進出は日本の格闘技ファンにとって福音ではあったが、同時に日本のテレビ格闘技文化に見切りをつける出来事だった。地上波で放映される悲惨なお茶の間格闘技バラエティ番組を罵りながらもそこに現れるかすかな希望を見いだそうとし、そしてそれを見事に踏みにじる低レベルなマスコミ映像文法に何度も心を折られ、かろうじてインターネット放送局、Abema TVの格闘チャンネルで望みをつなぐ事ができた。あくまで私個人の主観して、と一応断っておく。

そんな状況下でアジア最大の格闘技団体がついに日本に上陸してくれる。国内団体と提携を結び、日本王者を世界のケージへと導くことを約束してくれる。世界的なボクサーに足元を見られた末のエキシビジョンマッチのおまけではなく、本当にコンペティティブな、競技としての総合格闘技が見られる。心の底から日本の地上波テレビ格闘技に絶望していた一格闘技ファンにしてみれば、鼻薬を嗅がされて見る夢のような出来事だった。

 

両国国技館にはアジア各国のファンが集い、各々の出身国の選手に大声援を送っていた。会場に設置された巨大なスクリーンからは日本では見られないセンスの映像が流され、腹の底まで響く重低音や眼を突き刺すレーザービームが自分を襲ってきた。トーキョー、メイクサムノーイズ!と叫びながら日本人観客に全く忖度しないリングアナの英語アナウンス、時折英語を直訳したような日本語で放たれる場内プロモーション。入場時の手際の悪さから気づいていたが、これは海外の格闘技興行なんだとむりやり納得するしかなかった。すれっからしの格闘技ファンの荒んだ心は大味でゴージャスな演出に身を委ねるしかなかった。

何年も見続けてきた国内王者達が善戦しながらも敗れ続ける姿に胸を締め付けられ、それでもメインイベントさえ決めてくれれば、と長時間に及ぶ観戦に耐えて、ついにその時が来た。

どこか諦めにも似た青木の独白を映した煽りPVが不穏さを感じさせ、そしてかつてと同じ入場曲のバカサバイバーが流れる。この瞬間だけは日本の格闘技興行だ。確かにそう感じさせてくれた。そこからは祈りしかなかった。

青木が放つミドルキックといくつかの打撃が交錯し、青木がタックルに入る。金網側での攻防の末、青木がボディロックし、フォラヤンのバランスを崩しテイクダウンする。そしてハーフ、一瞬の沈黙の後青木の上体がフォラヤンの上方に乗る。何が起きているのかモニターを見ると肩固めの体勢に入っている。会場の誰もが絶叫し勝利に届けと叫ぶ。青木の締めをこらえるフォラヤンの腕から力が抜ける瞬間を目の当たりにして叫んだ。「落ちる落ちるウオアアア!」

 

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思えば日本の格闘技ファンは誰も彼の心に寄り添うことはできなかった。孤独に戦い、SNSで毒舌を吐き、敗れ、そんな彼を何度も冷たくあしらった。PRIDE時代ですら寝技で一方的に勝つからつまらないとヒール役を与えられた彼である。とても彼を理解し、応援していたなんて言えない。どうだ羨ましいだろう、と言われて返す言葉もない。ただ歓喜を叫んで返すしかない。

意気揚々と乗り込んで小さな一つの市場を制圧しにきた団体に大きな手傷を負わせたのは彼である。完全に日本人の心を折りにきた相手の心臓を思い切り鷲掴みにしたのは彼である。その雄姿を目の当たりにしただけで生きていける。日本の格闘技全盛期から現在まで生き残り、大舞台に這い上がってビッグショットを決めた日本格闘技界のザ・ラストマン。青木真也の伝説をこの眼で見ることができて、本当に良かった。