売野磯子 ルポルタージュ

売野磯子 ルポルタージュを読んだ。

恋愛が時代遅れになり、恋愛関係を飛ばした結婚が当たり前になった時代の話。そんな「飛ばし」による結婚を目的に集まった非・恋愛コミューンでテロが起こり、その事件のルポルタージュを書くためにコンビを組んだ先輩、青枝と後輩の絵野沢、事件の犯人を支援していたNPO邦人代表の國村との間で起きる三角関係の話。

事件の調査が進むにつれ、メンバーの人となりが明らかになっていき、非・恋愛を名目に集ったコミュニティ内にも様々な価値観の違いがあることが見えてくる。そして当初宗教がらみと思われた犯人のテロの動機が、恋愛をしたくてもできない自らの境遇から、近所に住む非恋愛コミューンのメンバーの生活を目の当たりにして恨みを持ったことによるものではないか、という推測が生まれる。事件の謎と並行して、青枝と國村の間に時代遅れとなった恋愛、しかも一目惚れの関係が生まれ、また絵野沢の青枝への恋心、あるいはなんらかの感情が起こり、関係が変化していく。

この作品は、恋愛関係や結婚への忌避感と、インセル、女性蔑視、非モテが絡み、もはや恋愛することが馬鹿にされ、新たな軋轢が生まれた時代に芽生えた恋愛感情はどう結ばれるのか、というテーマを異性同性を含めて描いている。

契約ライクな結婚という流行った題材にインセル問題を絡めて、恋愛者がもはやマイノリティのように扱われているという一手先を打った設定や、またルポルタージュの取材によって事後的に事件の被害者達の人となりが明らかになっていく構成もおもしろい。…と思ったら3巻で打ち切り、しかし無事に、その後「ルポルタージュ〜追悼記事〜」として再び連載が始まっている。

賞レベルの社会派ミステリー作品にも引けを取らない出来なんじゃないかと思っているので、これからの展開に期待しています。